人は亡くなった時、死亡診断書、死体検案書という書類を作成します。この書類は、保険請求その他のご遺族の権利・利益に重大な影響を及ぼしますのでとても大切な書類です。またこの書類がないと、ご遺体の移動、火葬、葬式ができません。この書類作成をめぐって、(明らかな病死のかたは問題ないのですが)原因不明の突然死、外傷死、労災事故死の場合、問題となることがあります。

監察医務院のある東京、横浜、名古屋、大阪、神戸では、そのようなご遺体はすべて監察医務院に送られるので、そこで監察医が検案や場合によっては解剖されるなどして死因を追及されます。

ところがこの監察医務院のない日本のほとんどの地域では、監察医制度がないため地元の警察と担当医、警察協力医で遺体は処理されます。臨床医は死体を見ることは得意でないため、また田舎の警察も死体になれていないため、時として誤った死亡原因をつけてしまうことがあります。(明らかに異常な死体、全く原因の分からない死体は解剖することがあります。)現在のシステムではどうしようもないところなのですが。

個人的には、全国に監察医制度があればいいなと

思います。
きずの治療はについて、ここ数年治療方法が大きく変わってきたので紹介したいと思います。きずに対して、みなさんがイメージされる、イソジン消毒をしてガーゼをあてるというスタイルはすでに1世代前の消毒法になっています。

    以前                  現在

・きずは乾かすとなおる   →    きずは湿らせて治す

・きずは消毒する       →    消毒しても化膿は防げない
 消毒しないと化膿する         きずは消毒しない

・きずはぬらしてはいけない →    きずはよく洗ったほうが良い 


要するに『きずを乾かさない、消毒しない』という治療法に変わってきているのです・    
日本の外傷(けが)治療は、アメリカ、ドイツなどと比べると一歩遅れをとっています。がん治療や心臓の治療と比較して、いまだに重要視されていないのが現状です。その証拠にがんセンター、循環器センターはあるのですが、外傷センターというのは存在しません。

海外では外傷センターが存在し、重症外傷はすべてそこに集められます。ヘリコプターなどを利用し、半径300kmくらいの範囲から患者さんがあつめられるそうです。治療レベルも高く、日本と比較して数多くの外傷専門医がおり、症例数も桁違いです。日本ではこの外傷センターの役割を救命センターがしていますが、救命センターでは外傷だけでなく、脳卒中や中毒などすべての救急疾患をみるため、外傷だけに特化しているわけではありません。そのため外傷センターと比べると、どうしても治療成績や入院期間に差が出てしまいます。

しかし最近になり、外傷治療の質を向上させようと様々なとりくみがなされています。その1つに 『JATEC』というものがあります。JATECとは外傷初期治療のガイドライン、およびそのための講習会で、初期の外傷治療の標準化、すなわち外傷の見逃しをなくしたり、どこの地域でも同じような初期治療を受けられるように開発されました。現在とても人気があり、なかなか受講できないくらいです。

日本の外傷治療は日々進歩しています。欧米レベルに近ずく日も、もうすぐではないかと思います。

日本では年間約八万人が突然死で死亡しています。その半数が心臓が原因で亡くなっています。このうち、現在では、突然の不整脈により亡る方を、そばに居合わせた人が適切な救命処置をしたら助けられる可能性があります。この蘇生処置の1つとして、心臓に電気ショックを与える自動体外式除細動器(AED)の使用が、今夏から一般の市民にも認められるようになりました。これまでは、AEDを使えるのは医師、救急救命士、講習を受けた航空機の客室乗務員らに限られていましたが、一般市民にも使用できるようになり、救命できる可能性が高まりました。

二〇〇二年十一月、スカッシュの練習をしていた高円宮さまが突然倒れ、四十七歳の若さで急逝されました。原因は不整脈(心室細動)でした。高円宮さまの急逝をきっかけにAEDの使用拡大を求める声が広がり、厚労省は今年七月から一般の市民の使用を認めました。

AEDは上の写真のような形をしていて、使用方法は音声に従ってして頂くだけなので、操作比較的簡単なのですが、おそらく初めてのかたが実際に使用するのは難しいと思います。自分の家族、周りの方を守るという意味においても、1度は救急蘇生の講習会などに参加されてはいかがでしょうか。
長い人生の中、皆様も一度か二度は手術を受けなくてはならなくなると思います。手術室は患者さんからは全く見えなため、よけいに心配になることと思います。

私は救命センターの中で、年間約100人の方の手術を行っています。いろんな手術がありますが、全例術前のプランニング、カンファレンス(超緊急手術の場合は省略しますが)を行います。外科医にとっての手術は、芸術家が作品をつくるのに似ていて、どんな手術においても、全力で取り組みます。ほとんどの外科医は同じように考えていると思います。

手術を受けられる方の注意点

・ 執刀医を確認する。希望の執刀医がいれば、そのむねをきっちり伝える。
  
・ 手術以外の方法は無いのか確認する。

・ 肺塞栓症(エコノミークラス症候群)の予防について確認する。

・ 手術前日、執刀医にちゃんと休んでもらうようお願いする。
急に寒くなってきましたね。今夜は風も強く、とても肌寒むかったですね。
そろそろ風邪、インフルエンザが流行始める時期でしょうか。

かぜとは、ご存知のかたも多いと思いますが、鼻から咽喉の間(図の赤線)にバイキン(ウイルス)がつき炎症を起こす状態で、そのため鼻水、セキ、発熱などを起こします。炎症がもっと奥へ進行すると、気管支炎、肺炎となっていくわけです。

普通のウイルス感染であれば、特別な治療をしなくても通常1週間以内に症状は軽快します。しかしインフルエンザには注意が必要です。高齢者では肺炎を起こし、死亡原因ともなります。インフルエンザウイルスに感染すると、38~40度の高熱が1~5日続き、若い方でもかなりつらい思いをします。

普通のウイルス感染であれば特別な治療は必要ないことが多いですが、

インフルエンザ感染の場合は、発症48時間以内(2日以内)であれば、抗ウイルス薬(シンメトリル、タミフル)が有効です。

発症3日以降では、この抗ウイルス薬は無効です。インフルエンザは、のどの検査ですぐに(20分以内)結果が出ますので、高熱がでたときは早めの病院受診をお勧めします。

また65歳以上のかたは、インフルエンザワクチンの摂取をお勧めします。
救急で病院にかかり、かなり待たされた経験がある人は多いと思います。なんで救急なのに待たせるの というお叱りをよく受けますが、これには理由があります。

救急担当の医師(当直医)は、救急の外来はもちろんのこと、入院患者さんの治療、緊急手術(外科医の場合)、緊急の検査としなければならないことがたくさんあります。そのため生命の危険のある方から優先的に治療をしていきます。当直医はたいがい各科で1人(小さい病院であれば病院に1人)なので、どうしても軽症と判断されるかたは後回しにされてしまいます。

しかし軽症と判断される人の中にも、重症な人が隠れていることがあります。我慢強いひとなどがぎりぎりまで我慢してしまうので危険です。もし本当に限界と思ったら、何度でも受付や看護婦に訴えた方がよいと思います。看護婦も普通じゃないと判断すれば、診察の順番を早めてくれるはずです。

とくに

・ 呼吸が急に苦しくなってきた人
・ 冷や汗をかいて苦しがっている人


こういう症状があれば早く見てももらわないと危険です。積極的にアピールしてください
みなさんに教えて頂きたいことがあります。

私は救急外来でよく、どこまで我慢して大丈夫か。また、どのくらいひどくなったら病院にくればよいかという質問を受けます。

みなさんは、

・ 救急で診てもらおうと思うときは症状はどの程度でしょうか。
  (少しの症状でも心配でから診てもらおうとか、ぎ
   りぎりまで我慢してどうしようもなくて病院にい 
   くとか)
・ 何か症状がでた時、参考にするものは何ですか。
  (インターネットとか、家庭の医学とか、親に聞く
   など)

以上2点について、何か良い方法があれば教えて頂けるとたすかります。患者さんを診るときの参考にさせていただきます。
昨日は交通事故の多い日でした。

夕方に搬送された患者さんは、交通事故で全身を強くうっており、頭、胸、骨盤、大腿骨におよぶ全身の多発外傷でした。多発外傷とは、同時に2ヶ所以上の臓器に生命にかかわるような外傷がある患者さんで、非常に死亡率が高い外傷をいいます。通常の頭を怪我した、胸を怪我したというものと異なり、同時に多部位に損傷があるため治療も困難になります。

全身の精密検査、平行しておこなわれる治療、緊急手術、血管造影と、しなければならないことがたくさんあり、多くの医師、それも脳外科、整形外科、一般外科におよぶ専門医の協力が必要になります。このような患者さんを救うためには多くの専門医、高度な医療施設、技術、看護婦などコメディカル協力が必要になります。

これらが整っているのは現在日本では救命救急センターということとなります。


昨日は医師4人で治療を開始したにもかかわらず、気がつけば夜が明けていました。
みなさん、交通事故にはくれぐれも気をつけて下さい。
現在どこの病院においても、医療事故に対しては敏感になっており、その対策も以前と比べるとしっかりしたものになってきています。

私が勤める病院でも、リスクマネージャーを設置したり、委員会を作ったり、職員に教育したりとかなりしっかりとした対策がとられてきています。特に薬の管理は厳しく、専門の薬剤師が張り付いて管理しています。ほとんどの病院同じように、厳格なリスクマネージメントがされています。そのためあまり医療事故には敏感にならなくても良いのではと思います。

医療事故に遇わないためには、こういった医療事故に対するリスクマネージメントがしっかりしている病院を選ぶの一つの方法と思われます。